栗 御 飯
久しぶりにセンセイの家に遊びに行くと紙袋に入った栗をみつけた。
ツヤツヤと光っていて、ゆるく丸みを描く栗はなんだかあったかい気がしてくる。
「ああ、日向。食べたかったら食べていいぞ。もらったんだけど、どうしたらいいのかわかんなくてさ。」
「茹でたら、センセイも食べる?」
「う〜ん、そうだな・・・」
わかってる。この人はすごくめんどくさがりなんだ。一見部屋が片付いて見えるのも物をだすのが面倒だから。食べることに関しては面倒くさいというより興味がないのかと思ってしまうほどだ。袋ラーメン作るのも面倒って言うんだから空いた口がふさがらない。でも、自分の作った料理は喜んで食べてくれるし、全く食べ物に興味がないわけではないらしい。
ここで栗を茹でても皮をむいてやらなきゃ、食べないだろうな。
「センセイ、栗御飯食べれる?」
「え?栗御飯なんて日向作れるの?」
驚いたセンセイに日向は偉そうに鼻を鳴らした。
「俺の料理の腕前はセンセイが1番良く知ってると思うけど。」
感心したようにパチパチと手をたたいている姿を見て、ちょっとだけ日向は不安になった。
センセイ、俺がいなきゃ食生活はまるでダメかも・・・
「やっぱり器用だよな。日向の手って。」
しばらく水に漬けておいた栗を包丁でくるくると皮を剥いていく手を掴んでまじまじと見る。
ごつくてでかい日向の手は一見不器用に見えるけど、料理はもちろん洗濯・掃除・縫い物までこなしてしまう器用な手。取れたボタンなんてその場でささっとつけてしまう。
若島津の手は昔ゴールキーパーをしていただけあって、やっぱりごつくてでかいけど、日向の手よりは柔らかいイメージがある。だけどこの手は家事に関してはまったくダメで、茶碗ひとつも満足に洗えない。
そんなセンセイに呆れながらもかわいいなあと思ってしまうあたり日向も終わってしまってるんだけども。
でも、センセイのこんな不器用な手を待ってるたくさんの病んでる人たちがいる。その人たちにとっては自分を治してくれる癒してくれる魔法の手。
もちろん自分にとっても。
センセイの手に触れられるだけでこんなに胸が高鳴って、そして熱くなってくる。
「ひゅうが?」
突然耳元で声がする。どうやらぼうっとしていたらしい。巷では猛虎と恐れられいる日向も愛する若島津の前ではただの大型犬のようだ。胸がドキドキしているのを気づかれないように、栗を剥く手を早めた。
昆布と塩・酒・醤油少々だけのシンプルな味付けの栗ご飯を炊いている間にお吸い物と栗ご飯の邪魔にならない程度のおかずを作った。
手伝おうかと言う若島津をソファに押し込んでパパパッと作ってしまう。カリスマ主婦真っ青の手際の良さ。若島津が手伝うと手でも切らないかとハラハラして料理に集中できないのだ。
年上男を捕まえて包丁が心配、なんてのもどうかと思うけど。
そして、今、湯気の立ち上る料理を前に向かい合わせで食卓につく。おいしそうに食べる若島津を見ると嬉しくて、また作ってあげたいなあ、なんて思ってしまう。
「栗ってさ」
箸を動かす手を止めて、若島津はまっすぐに日向を見た。
「最初はイガに覆われて触りたくないし、鬼皮は硬いし、渋皮も扱いにくいけど、そんな障害を乗り越えたら、こんなに甘くておいしい栗を食べれるんだよなあ。」
そして小さく笑う。
「これって、日向にそっくり。」
一見怖そうだけど実は優しくて甘えたがりのところがそっくり。
そう言うと自分の考えに満足して更に笑った。
「俺に似てるって言うより、俺たちの関係のほうが栗に似てるんじゃねえの?」
障害が多いけど、それを乗り越えたらこんなに幸せいっぱいの生活が待っている。自然の甘さで、甘すぎないところも俺らにぴったりな気がするんだけど。
そんな日向の台詞を聞いて若島津は少し顔を赤らめて「恥ずかしいヤツ」とつぶやいた。
栗ご飯がいつもより甘く感じたのは気のせい?